佐野枝利 「茶盌鉢」

佐野枝利
「茶盌鉢」


岡山にて作陶されている佐野さんより、素晴らしい作品が20点強届きました。
onlineに一部掲載しております。
作品名にもある通り、今回全ての作品を茶盌を作るお心持ちで作陶いただきました。

まず、茶盌と植木鉢についてお話いたします。

私自身、茶に従事していたこともあり、現代作家さんから骨董品までたくさんの茶盌を扱ってまいりました。
茶盌、いわゆる抹茶盌は、ご飯茶碗に比べ、高価なものがほとんどです。
なぜか。と、問われますと茶盌の持つ芸術性(鑑賞に耐えうるか)と作家さんの心持ちの部分が大きいと思います。
もちろん作家さんにより考えがあり、一概に言えませんが、私の経験、考えのお話になります。

茶盌とは茶道具であり、茶室で使われるもの、そして、とりわけ鑑賞の要素が高い道具です。
茶をいただいた後、全体の景色から見込み、そして高台まで茶盌全体を鑑賞し楽しまれます。
そのような要素があることから、作り手側としては作陶における心持ちが違います。
その心持ち一つによって、成形から削り、焼成から仕上げまで、全ての工程においてより丁寧に、より美しくという心持ちで作られております。
工芸における、工と芸、全てに妥協なく、作られたもの、それが茶盌です。
工は技術、芸は芸術、茶盌は特に芸に寄ったものだと考えております。
どちらも欠けてはいけませんが、技術だけでなく、その人にしか出せないもの、その人を彩るものが芸となり他には出せない魅力になります。
茶盌というあらゆる要素が特殊なものであるがゆえに、その芸術に価値があるのです。


今回の茶盌鉢はこのように茶盌を作る心持ちで作陶いただきました。
茶盌に穴を開け、植木鉢にする
頑固な職人さんなら門前払いになりそうですが、佐野さんより有り難くもご理解をいただき、形にすることができました。

そもそも昨今における植木鉢はかつての植木鉢とは全く性質が異なるもの、なんなら別の道具だと言ってしまっていいくらいだと考えております。
かつて、陶芸における一般的な植木鉢といえば、地面に置かれるもの、器に穴を開けるものなどといった理由から、陶芸の世界では邪道と言わんばかりの立ち位置の低さだったと聞きます。
ただ現在、植木鉢は室内は当たり前、なんなら鑑賞のために専用の棚まで作られる方もいるほどです。
お気に入りの作家さん、職人さんから購入された植木鉢を庭に雑多に置くなど、皆無かと思います。
今、植木鉢は植物の命を育てる器としてだけでなく、鑑賞という芸術の要素が、以前よりも遥かに付加された素晴らしい工芸となったと感じます。
釉薬の有無、形など植物の生育にとって良い性質のものを選ぶのはもちろん大切ですが、芸術性で選ぶことも大切です。
なによりも植木鉢と植物に愛着を持つことが大切だと思います。
その愛着により、大切にしようという心持ちを生むのです。

茶盌は命をいただく器、植木鉢は命を育てる器
役割や要素は違えど、本質は似ているのかもしれません。
芸術を求められ、命を育てる大切な器
陶芸の世界で邪道など、ありえないと私は考えております。
そのような想いもあり、今回、佐野さんと茶盌鉢を形にできたことに大変感謝しております。


茶盌鉢を作陶いただいた佐野枝利さん
岡山にて作陶されております。
陶芸の世界では備前焼として知られる日本六古窯のひとつに数えられる地です。

今回の茶盌鉢も岡山の豊かな自然をいただき、自然に委ねて焼成した、それぞれが同じものがない、素晴らしい景色を纏っております。
やりとりをする中で感じたのは、本当に自然を大切にし、自然と共生されているんだと感じるあたたかく、優しい心を持った方です。
全ての作品がそんなあたたかみが溢れるもの仕上がっております。
尖りはなく、暖かく優しいながらも、芯のある強さを感じます。
私自身、桐箱を開封し手にした際、久しぶりに特別なものを手にした気分になりました。
onlineに掲載した作品をご覧いただければわかるように、同じものは一つとなく、炎によって描かれた何層もの景色が作品の持つ強さをあらわしております。
茶盌のように末永く大切にしてほしいという想いから、全ての作品を桐箱に納め、黄木綿を付属いたしました。
お手にとっていただいた方が茶盌鉢に触れ、ゆっくりと時をかけることで変わりゆく表情を楽しんでいただくことを願っております。

ここまでご覧いただき、感謝いたします。

最後に佐野さんよりいただいたお言葉を紹介いたします。

作品について。。当方の山の自然の恩恵だと感じております。土、水、木々、全て地元の自然です。
備前に携わり10年ほど経ちますが、備前は自然と同様、閑かにいきていると感じています。

晴れの日、曇りの日、雨の日、1日でも早朝や夕刻と明かりによって表情が変わるので、実際にその様子をご覧になっていただけたらいいなぁと思っております。水に濡れると発色も深まり、触れていただくことで時をかけてゆっくりと柔らかく表情豊かになっていきます。
植木鉢は飾り置きしてお楽しみいただくことが多いかと思い、置いた時に落ち着くように底にほんの気持ち重みを持たせました。
茶盌のように、ぜひお手に取って茶盌鉢を包み、肌感を楽しんでいただきたいと思います。

木々はやきものを焼くために伐採は致しません。間伐などで惜しくも伐採された木々達や松は近隣の国産材木の皮側切り端をいただいております。これらの木々が炎によって土と融合し新たな姿に生まれ変わります。皆さんに愛でられ、この先長い月日をゆっくりと生き続けてほしいなぁと願っております。